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商法には、「商号の譲渡」を、営業譲渡とともにする場合と、営業を廃止してしまう場合にかぎって認めるとの規定があります(24条)が、この規定は個人の商人にしか適用はなく(商業登記法34条)、株式会社や有限会社など会社の場合は、自己の商号を他人に使用させようとするときに定款を変更して商号の変更を行い、商号変更登記をすることができ(商法188条3項、67条、64条、61条、有限会社法13条3項、商業登記法79条、94条)、商号の譲渡があったと同様に商号の続用をすることができます。
ところが、商号の続用には法律問題が発生しやすいのです。
少し複雑な議論になりますが、この問題は営業譲渡と会社分割の法的な同一性と相違性を理解するにはうってつけの問題ですから、くわしく追ってみましょう。
まず、商法は、商号というものを商人の同一性を示すものとして保護する規定をかなり数多く置いています。
他人の営業と誤認させるような商号を使用するものに対しては損害賠償を請求できますが、それだけでなく、その商号の使用差し止めを請求することができます。
また、不正競争の目的をもって同一ないし類似の商号を使用するものに対しても、同様に損害賠償請求も差し止め請求もできます(商法20条、21条)。
これを「商号の排他力」と呼んでいます。
他方、商法は、営業譲渡をした場合には、譲渡人は特約がないかぎり、同一市町村内および隣接市町村内において20年間は同一の営業をなすことができないと規定しています(25条)。
そして、最高裁は、「営業譲渡は譲渡人が競業避止義務を負う結果をともなうものをいう」と判示しています。
学説の大勢は反対ですが、判例上は競業禁止をともなわないものは営業譲渡ではないと考えられます。
このように、商号の排他性と営業譲渡による競業禁止の2つの原則が働いている状況下で、甲会社がB事業を乙会社に営業譲渡し、乙会社が甲会社の商号を続用してB事業を行うとすれば、どういうことになるのかというのが、ここでの問題です。
商法はこの場合には、甲会社が第三者に対して負担する債務について、乙会社も法律上、当然に弁済の責任があると定めているのです(26条)。
取引関係に入った第三者からみれば、乙会社も甲会社と同じにみえるではないかというのが商法の立場です。
「取引の保護」は、商法が立脚している大原則の1つなのです。
そして、判例は、この商法の原則を商法上の純然たる商号でなくとも、屋号とか看板の標記とかゴルフクラブの名称とか商号ではないが、商人の同一性判断基準としての機能を有する外形的表出を続用する場合にまで拡張して第三者を保護しています。
ところが、乙会社としては、営業譲渡代金を甲会社に支払っているのですから、第三者に対するこの弁済責任を逃れたいと考えるはずです。
商法は逃れる方策も準備しています。
乙会社は、営業譲渡を受けたらすぐに、「甲会社の債務には乙会社は責任を負わない」という免責の登記をするか(商業登記法31条、商業登記規則54条)、あるいは甲会社と乙会社とが連名でその第三者に対して、乙会社は責任を負わないと通知しなければならないというのです(26条2項)。
ここでの問題は、会社分割でも同じ問題が発生するのではないかという疑問です。
つまり、甲会社がB事業を、新設分割または吸収分割で乙会社に会社分割し、乙会社が甲会社の商号を続用してB事業を行うとすれば、どういうことになるでしょうか。
甲会社の第三者に対する債務について、乙会社は責任を負わなくてもいいのでしょうか。
前日に甲会社と取引関係に入った第三者にとっては、今日は、乙会社が甲会社のようにみえる点では、営業譲渡の場合と同じではありませんか。
つまり、取引関係に入った第三者からみれば、取引相手の甲会社という商号の会社は、前日と同様にB事業を営みながら目の前に存在しているのです。
それが、実は、乙会社が会社分割によってB事業を取得したのか、営業譲渡によってB事業を取得したのかはわからないし、甲会社から商号の譲渡を受けたものだということもわかるわけがありません。
「取引の保護」の大原則からみて、第三者が乙会社に甲会社の債務の弁済を訴求したら勝訴するのではないでしょうか。
すると、「ちよと、待ってくれ」と手をあげる人がいるかもしれません。
「営業譲渡の場合、乙会社が甲会社の債務についても責任を負うのは、商号の排他性と営業譲渡による競業禁止の原則が働いていたからではないか。
会社分割でも、商号の排他性は働いているだろうが、営業譲渡ではないのだから、競業禁止の原則は働いていないはずだ。
営業譲渡については競業禁止の条文がある(25条)が、会社分割の場合には競業禁止の条文がないではないか。
営業譲渡によらないで会社分割の方法をとるのは会社分割のほうがメリットが大きいからではないか。
このメリットの1つに競業禁止が働かないということがあるのだ。
それに、会社分割の場合には、乙会社が甲会社の債務には責任は負わないために、免責の登記をしようにも商業登記法はそのような登記を認めていないではないか。
また、乙会社が甲会社と連名で甲会社の債務には責任を負わないよと通知しようにも、そのような通知を認める条文がない。
だから会社分割の場合には乙会社は甲会社の債務について逃げる方法がないのだから、そもそも甲会社の債務については弁済の義務はないということなのだ」と。
さて、どちらが正しいでしょうか。
私は、取引保護の原則から、会社分割の場合でも第三者は保護されるべきだと考えています。
会社分割後、乙会社が分割会社の商号を続用する場合には、甲会社の第三者に対する債務について、その債務が会社分割により乙会社に移転していない場合(「分割計画書」ないし「分割契約書」に記載がない場合)であっても、商法26条の類推が当然働き、乙会社は当該第三者に対して弁済の義務を負うと解釈すべきだと思います。
この理由は、次のとおりです。
会社分割は、営業の承継が起きる点だけをとらえれば、営業譲渡とまったく同じ法現象だという点を確認する必要があります。
次いで、営業譲渡では、債務を移転するには、当該債務についての債権者の同意が必要であるのに、会社分割では債務の移転に債権者の同意が不要だということを思い出していただかなければなりません。
営業譲渡の方法で、ある特定の債務Nを移転するには、N債権者の同意が必要です。
したがって、営業譲渡で、商号続用がある場合の営業譲受人が営業譲渡人の債務について責任を負うと定める商法26条の規定は、当然、N債権者は同意していないことを前提にした規定なのです。
そもそもN債権者には、同意を求める通知さえいってないかもしれません。
にもかかわらず、商法26条は営業譲受人乙会社に甲会社の債務について責任を負わせて、そこまで債権者を保護しているのです。
他方、会社分割の場合も、当該債務Nの債権者には、「N移転の同意を求める通知も移転しますよ」という通知もいきません(せいぜい会社分割をするが異議がありますか、あったらいうようにという催告です)。
ですから、会社分割でも、商号続用がある以上、営業譲渡の場合と区別しなければならない理由がないのです。
この理由付けに対して、「営業譲渡では債権者保護手続きがないけれど、会社分割にはあるのだから、このような理由付けでは納得いかない」という意見の方には(かなり理解力の高い方だと思われますので)、少し面倒ですが、詳細に理由を説明しましょう。
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